「新刊めったくたガイド」は、各担当者がジャンル別に新刊を紹介するコーナーです。「SF」を大森望（翻訳家／書評家／アンソロジスト）が担当しています。タイトルでお判りのように、冒頭に『もいちどあなたにあいたいな』の書評が書いてあります。
過日「２０１０年とＳＦ」なるお題の電話取材を受けた。言われてみると確かに２０１０年は（クラークを別にしても）しみじみＳＦっぽい。「２から始まる年ってＳＦですよね」と庵野秀明が喝破してから10年。再びＳＦイヤーが巡ってきた。
その劈頭を飾るのは、新井素子７年ぶりの長編、『もいちどあなたにあいたいな』（新潮社一五〇〇円）★★★★。大学３年生の”あたし”こと澪湖は、幼い娘を亡くした叔母のみを気遣うが、何かがおかしい。言葉遣いの微妙な違和感。あるはずのない水着の跡。突拍子もない仮説を思いついた澪湖は、頭脳明晰なオタク男子に相談する。
……と『盗まれた街』風に始まった物語は、ものすごく意外な方向に転がる。何を書いてもネタバレになりそうだが、当欄で紹介する以上、ＳＦ成分を含むことは隠せない。おなじみのこのネタをこう使った小説はたぶん初めて。いや、驚きました。
★は大森望による評価を表しています。