正本ノン・田中雅美・氷室冴子・久美沙織による座談会です。「コバルト四天王」という称号は誌面には登場しておりません。（それがいつから使われ出したのかは未調査。ご存知の方ぜひは教えて下さい。）
扉ページにはこのように書いてあります。
次々に問題作を発表して、いまをときめく新鋭女流作家たち。そのパワーの前には、男性作家たちもたじろぐほど。どうして、いま、少女小説なのか。みずからの小説作法からプライベートまで、大いに語ってもらった。
新井素子さんの名前が登場している箇所があるので抜き出してみます。P.18「少女小説家はおしんする」の章より。
田中 考えてる辛さとそれに集中してる辛さっていうか集中力で精神的にどっと疲れんの。瀬古のマラソンと同じよ。アハハッ。よかった、瀬古が勝って。
氷室 ちょっと、お宅の話ってすぐ落ちがつくのね。
久美 そういえば、この間、新井素子ちゃん達と飲みに行ったんだけど、彼女、寝てたのね、飲み屋で。それが突然パッと目をさまして”あたし、原稿書くぅ”って言い出したのね。えー、ちょっと嘘でしょうって見にいったら、隅っこの方でマスターにコーヒーもらって、ガリガリガリってその場で書いてんの。見ててコワかったぁ。いきなりよォ。できる？
氷室 ダメよッ、そこで負けてちゃ、私も書くうって叫んで、原稿用紙なかったらトイレットペーパーでも何でもいいから、ワーッって書きまくんのよッ。
久美 ワーンッ。私、そこですぐ”マスター氷、アンコール”とかいってホステスやっちゃうのォー。
もう一つ、P.24「少女小説家は生き抜く」の章より。
司会 ところで、少女小説家を目指す人々に望むこととかメッセージをっていったら何があります？
久美 エピゴーネン（真似）は、絶対よくない！
氷室 やっぱり亜流はもうダメ、出つくしてるから。
久美 だから少女小説だけ読んで書いたんじゃダメなんだよね。他の本とか分野を知らなくっちゃね。
正本 コバルトに応募してくるＳＦなんてみんな素子ちゃんの真似だもんね。最初にドタドタドタとギ音が入って、なんたらかんたら五、六行描写があって”あ、ごめんね、自己紹介忘れてた”って進んでって、みんな同じパターンだもんね、参るわ。
氷室 そ、素子ちゃんが偉いのはそれを作ったからだもん。だからそれと同じものを書いて彼女を超えられるなんて思っちゃダメだよ。
『ライトノベル完全読本 Vol.2』に掲載された田村弥生編集長のインタビューでも新井素子さんの文章に影響された応募者の話が出て来ました。当時のコバルト近辺ではかなり話題になっていたようです。