ぼくらの愛した二十面相
新井素子さんが出演した文士劇『ぼくらの愛した二十面相』の脚本です。新井素子さんの役は「小坊主」でした。劇の詳細は『ぼくらの愛した二十面相』のページへ。
ばたばたと足音がひびいて、小坊主の姿の新井が上手から出てくる。
新井 和尚さまあ……和尚さまあ……もオ、せっかちなんだから！ すみません、和尚さん見ませんでしたか？ 坊さんよりやくざの親分に似てますけど。
宮部 和尚さんならお帰りになったわよ。
新井 あらあ……編集の人が待ってるのに。どうも有り難うございました！
もとの上手に切れようとした時、木槌の音。照明変化して、といちいち書くのが面倒なので、以降省略します。
新保 念のため申し上げると、小坊主役は新井素子さん。（新井動こうとすると、またシンポが喋りだすのでこける）若くしてＳＦ回にデビュー、いまや推理作家協会きってのぬいぐるみコレクターであります。
半端なポーズだった新井、くたびれてしまう。
新井 止まっていられないじゃありませんか！
新保 どうも失礼。
笛を吹く。
新井 （舞台にむかって合掌）南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏！
退場する。それを見届けてから、おもむろに大沢を押し退ける北方。
上手から小坊主が出てくる。
新井 あのオ、萬月和尚まだみつからないんですウ。こっちへきませんでしたか？
宮部 こないわよ。
新井 おっかしいな、どこへ行ったんだろ、タコ坊主……南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。
と、また上手に切れる。
上手から小坊主走り出る。
新井 和尚さまあ――迷子の迷子の和尚さまあ……くそ坊主、出てこーい！（下手に去りかけて合掌する）南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。
新井、退場。俄然、探偵団員は北方にむかう。
小坊主が舞台を駆けてゆく。抱えているのは愛用のワニのぬいぐるみである。
新井 和尚さーん、和尚さーん……クソ坊主！……南無ワニ陀仏、南無ワニ陀仏。
うやうやしく一同に合掌して、去る。一同ぼんやり見送っている。
この劇の記録が一冊にまとまり、『文士劇 僕らの愛した二十面相 全記録』となって出版されております。