あとがきによると「私小説風味の官能小説を」という依頼を受けて執筆した小説だそうです。本文中に新井素子さんの名前が登場してきます。P.261-262より。
入学当時、山田君は女の子のように睫毛が長く、小柄で愛らしい男の子だったのだが、中学二年の二学期あたりからいい具合に成長し、ほっそりとした美少年になっていた。
読書家で、兄の影響で洋楽にも詳しく、私と趣味も合っていた。
彼は私にビートルズとクイーンのＬＰレコードを貸してくれた。筒井康隆の「七瀬シリーズ」を勧めてくれたのも彼だった。
私は彼にＹＭＯやスネークマン・ショーや、当時夢中になっていた三原順の『はみだしっ子』や、新井素子のＳＦ小説を貸してあげた。
親しくなって、しばらく経った頃、彼に「好きだ。つきあってほしい」と告白された。
本当は私は、山田君ではなく例の美少女――仮に「鈴木さん」としておこう――のことで頭がいっぱいだった。しかし、もしかしたら彼女に対する感情は「疑似恋愛」というやつかもしれないと疑っていた私は、「山田君と交際することで自分は目が覚めるのではないか」と浅はかな期待をし、そして、彼の告白を受け入れてしまったのだった。
森奈津子氏は『S-Fマガジン』2004年6月号や「Anima Solaris」のインタビューで新井素子さんの作品を読んでいたことを語っておりますので、この部分は事実に基づいた記述ではないかと思われます。
ちなみに、この短篇は単行本版には収録されていません。