トワイニング紅茶、均一百円。アイスは、夏季期間のみ。
「圭拓ちゃん、お宅にプリンス・オヴ・ウェールズある？」
「プリンス・オヴ・ウェールズ？ 赤い罐の奴だっけ？」
「ううん、トワイニングの黒い奴」
「ああ、あるよ」
「まさか」
キャット、プリンス・オヴ・ウェールズの新しい缶をあけながら。この紅茶、千秋の好みなのよね。おちこんでいるみたいだし、新しいの、あけてあげましょ。
「れーこさんあなた、自殺しようとしたわけじゃないんでしょ」
頭痛がするのか、こめかみを押さえ目をつむっているれーこさんを横目で見ながら、あたし、お茶をいれる。トワイニングのダージリン。まだ封を切ってない。
「麻子さん、もしできれば、あたくしにもお茶を下さいませんこと？」
「あ……ああ、ごめんなさい、ぼっとしてて。トワイニングでいいかしら」
「ええ」
「じゃ……熱いアールグレイなんかいれてみますね」
つって麻子さん、すっと台所の方へと消えてしまう。おーお、麻子さんも結構戦闘気分じゃない、この厭味ったらしいお茶っ葉の選択は。（えーと、アールグレイっていうのは、かなりにおいが特殊なお茶なので、普通アイス・ティ専用なのである。ま、人の好みは千差万別だから、世の中にはホットのアールグレイが好きな人もいるかもしれないけどね）
「ホットのアールグレイ……」
レイディは、勿論、そんな麻子さんの厭味が判ったらしく、ほんのちょっと鼻の頭にしわを寄せて。
「でも……ま、好みの問題って言えば、それでおしまいよね」
※ティ・ロワイヤルの場合は、別料金百円をいただきます。使用ブランデーは、もちろん、レミ・マルタンのVSOP。
「ダージリン？ プリンス・オブ・ウェールズ？ それとも？」
「イングリッシュ・ブレックファスト」
こう言うと、あたし、ソファに沈みこむ。キャビネットに並んだ紅茶のかんを見渡しながら。はん、トワイニングのまわしもんかあんたは。
「ミルク？ それともレモン？」
「ティ・ロワイヤル」
あくまでひねくれてやるんだ、あたしは。
「ふふん」
キャットは、あたしのすねている様には、何の感動も示さず、イングリッシュ・ブレックファストをいれてくれる。レミ・マルタンのＶＳＯＰ、ちょっといれ。は、見事なもんだわ。ゴールデン・リングができてる。
「で……あたくし、覚えたの。個人の好みのお茶。この人は、コーヒーっていったらモカに決まってる、とか、この人はネスカフェ専門、とか。あるいは、この人は舌がやけどしそうな温度が好き、とか、この人はどっちかっていうとぬるい方が好き、とか」
……凄く、心あたりが、ある。
あたしに出る紅茶。あれって、いっつも、トワイニングのプリンス・オブ・ウェールズではなかろうか。時々、オレンジ・ペコで。
代金は紅茶をお持ちした時にお願いします。