こんなことをいうと作者は気を悪くするかもしれないけれど、新井素子の小説を読んでいて、私はちっともＳＦを読んでいるという気がしない。では何を読んでいるような気がするのかというと、ちょっといいづらいのだが、「少女の夢」を読んでいる、というのか、語り聞かせてもらっているような感じ。オッ、カッワユイ、とか、タマランナー、とか思いながら、私はその話に耳を傾けている。
事件の発端では、緑色のＵＦＯが黄色のＵＦＯに淡いピンクの光線を射かけられる。この色。いかにも少女らしい、キレイな配色。そして、その夢のような色をしたＵＦＯが着陸するのが、練馬区石神井台一丁目二十六番にある石神井公園の池のそば。この夢と現実との混交のしかたがＳＦなんだけれども、ひどく具体的なはずの現実さえも、少女の夢の世界に組み入れられているので、ナマナマしさがとれていて、不思議なほど異和感がない。
主人公たちは宇宙戦争に参加するのだが、戦いのための準備の様子は、文化祭の準備をしているかのよう。いよいよ戦いが始まっても、読んでいる方はその戦いの行方がどうなるか知らされているので悲惨なことは少しも想像する必要がない。彼らの「遊び方」をながめていればよいのである。
こんな具合だから、ストーリーはほとんど私には関係がない。それよりもあちこちに主人公の独白の形で散りばめられている少女の夢の方が気になってくる。たとえば――
……例えば晴れた日曜日ね。窓が南向きで、ソファか何かあって、そこで旦那様が昼寝してんの。あたしは、ひなたぼっこがてら本なぞ読んで、たまに彼の寝顔を眺める……。日本間もいいな。早春。まだ、おこた片づけてなくて、旦那様は寝っころがってＴＶ観てんの。でも、いつの間にか、まぶたがくっついちゃって。あたしは、彼が読みちらかした新聞とかお茶とかをそっと片づけて、ＴＶ消す。「本当にだらしないんだから……」とか呟いて。そういうのって、何かとってもあったかそうで、平和な情景じゃない。……
このあとにはちゃんと「でも。現実っていうのは、そうは甘くないのね、やっぱり」というセリフがついているのだが、今のところ、物語の中にはキビシイ現実の肌触りは、ない。ほの甘い失恋と、かくあって欲しいという男の子のヤサシサ、たくましさ、解消することのない友情、自分が何者かであり得るという期待……。
「少女の夢」を聞いているような、と書いたけれど、実はこの「夢」はまるっきり現実離れしたユメではない。おそらく作者はこれと似たような見方で現実を見ているのだ。その見方の素直さに、私は驚く。背伸びをしてツッパッたところのまるでない、暗いカゲの意識のまるでない、いかにも少女のような少女が、この本の中にいることに、私は驚く。この素直さ、カゲの無さは、同世代の人たちの一部には反感を覚えさせるものだろう。しかし、それと同時に、うらやましさをも感じさせるだろう。
そして、この少女は、自分の夢のすべてが空しいものではないかということにウスウス気付きながら、その素直さでもって、この不安に立ち向かおうとしている。この物語はそういった少女の、世界に対する決意表明であると、私は読む。その決意のケナゲさが、私は好きだ。これからも、こういうった決意表明のひとつひとつを、語り聞かせてほしいものだと思う。（『いつか猫になる日まで』／著者＝新井素子／文庫判／２６４頁／￥２８０円／集英社）
今号で採り上げられた本と書評者のリストです。
1980年の夏に各地で開催されたSF大会のレポート。紹介されたのは下記の三つ。
P.202に新井素子さんの名前が登場しています。8月9日の開会式の後のこと。
（前略）その他、会場内は三Ｆの映写室、四Ｆの関大連企画室の三つに分かれてプログラムが進行しており、映写室では途中にスターログ新人賞発表をはさんで御本の映画をたて続けに上映。関大連企画室では自主映画、クイズ、猫まねコンテスト、漫才、新井素子コーナー、ひでおコーナーなどの催し物が午後七時までまいっぱいつまっていた。だけど、ぬえの店番なんかもあったんでほとんど観にいけなかったの……うぐうぐ。（後略）
「新井素子コーナー」では一体何が行われたのでしょうか。非常に気になります。ご存知の方はご一報下さい。
この回のテーマは「僕達のＳＦ」。ゲストのSF作家たちがこのテーマに沿った講演を行ったようです。午前と午後に別れた講演会の内、新井素子さんの講演は午前の部だったようです。
ゲストは、眉村卓氏。荒巻義雄氏。堀晃氏。風見潤氏。安田均氏。そして、新井素子さん。
新井さんは「かっこいい女の子の出る、ＳＦを書きたい」と声を大にして言われ、男性主人公優位のＳＦに、文句を言われた。
インタビューなどでもよく語っていた内容ですね。