国内で発売されたSF小説を取り上げるブックレビュー。
最後にまさかSFとは思わず先月取り上げ損なってしまった梨木香歩『沼地のある森を抜けて』（一八九〇円／新潮社）を。三十歳を過ぎた久美が亡くなった叔母から受け継いだ先祖伝来のぬか床。毎日かき混ぜていたクミは、ある日ぬか床が卵を宿しているのに気づく。卵は少年を産み、久美はその少年を育て始める。第一話だけ読めば女性性をテーマにしたファンタジイなのだが、物語が進むとこれが新井素子の「ネプチューン」をも思わせる、生物進化を正面から扱った本格SFになっていくのである。
「再刊」の項目に『季節のお話』の復刊本が掲載されています。
季節のお話 著＝新井素子，古川タク／1890円／ブッキング／ショート・ストーリイ＆イラスト集