ファンタジー風ライトノベルを書くための小説作法やこのジャンルの成り立ちや代表作についての解説が収録されています。2007年に小学館から創刊される「ルルル文庫」の編集部が作成に深く関わっているようです。
「１．少女小説とその中のファンタジーの流れ」の章で、少女小説系ライトノベルの成り立ちがコバルト文庫を参照して語られており、その中に新井素子さんの名前が出て来ます。P.169より。
少女小説のスタイルが作り上げられたのは八〇年代初めのコバルト文庫でのことでした。この頃に読者とちょうど同じか少し上ぐらいの年頃の女の子が何人も作家デビューして、読者と同じ目線で書かれた作品が本屋の棚を飾ることになります。
この当時のコバルト文庫の代表的な作家三人、氷室冴子、新井素子、久美沙織を例として挙げてみましょう。
P.171〜172には「主人公と読者を対話させた新井素子」という項目があり、読者に語りかけるような作風は新井素子さんがパイオニアだった、ということが語られています。少女小説に話を絞れば確かに新井素子さんがパイオニアだったのかも知れませんが、ライトノベルの歴史の中では新井素子さんが愛読していた平井和正の『狼男だよ』というのが先駆的作品として位置づけられると思います。
他に事実誤認があるので指摘しておきます。P.172より。
代表作としては『星へ行く船』の名前を挙げましょう。舞台は人類が宇宙に進出している未来です。家族も地球も捨ている勢いで家出をして火星に向かった主人公・森村あゆみは、ひょんなことから大変な事件に巻き込まれてしまいます。
あゆみちゃんが乗った船は惑星シイナ行きでした。切符に書かれた目的地もシイナでした（『星へ行く船』P.7参照）。あゆみちゃんは地球どころか太陽系さえ捨てる覚悟で家出をした訳で、それがなぜ火星に住むことになったかと言えば運よく太一郎さんに保護されたからに他なりません。火星は当初の目的地ではなかったのです。